The Spice Of Life

人生に、スパイスを。

気が付くとそこは峠

 

記事を投稿するのは、ずいぶん久しぶりになる。 

書き溜めていた記事をいくつか残しておこうと思う。(いつ書いたかは正確に覚えていないけど、たぶん先月かな。)

 

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脱いだ靴下を洗濯機と間違えて台所のシンクに放り込みそうになったり、いつも必ずかけて寝る目覚ましをかけ忘れて大事なときに寝坊したり、乗るはずの電車を思いっきり間違えて大幅なタイムロスを経験したり。

とにかく、最近ぼーっとしていることが多くなった。何も考えていないわけではなくて、むしろ色んなことを考え込みすぎて、常に頭の中がぐるぐるしている感じ。

 

 

中でも、とりわけ記憶に新しいエピソードをひとつ。

 

ある時、部活のあと晩ご飯をみんなで食べて、電車で家まで帰ろうとしたときのこと。これまでに何度か同じルートで帰ったことがあったので、私は何も気に留めることなく電車に揺られていた。

 

しかし、気が付くとそこは無人駅。

「えーー!?嘘やろ……」

居眠りをしていたわけではないのに、いつのまにか知らない土地に着いていた。ぼーっとしすぎていたのかな。動揺、焦り、不安、色んな感情が入り交じる。時刻はすでに23時半を過ぎていた。

 

もう一度言うが、ここは無人駅だ。もともと本数が30分~1時間に1本しかないのに、逆方向へ戻る電車がすぐに来るはずもない。恐る恐る時刻表を見てみる。すると、最寄り駅まで帰れないどころか、その方向へ向かう電車さえすべて終わっていた。途端、今まで味わったことのない絶望感に襲われた。意図せず涙がこぼれるとはこういうことか、と。 今思い出しても泣けてくる。

 

ホームで一夜を過ごすか、町中に出て安宿を探すか。

いやいや、前者はさすがにないだろう、とすぐにその選択肢は頭から消えた。なんと言ってもその日は、驚くほどの寒さだったから。「そんなんここで寝たら凍死してまうがな……」と、自分で自分をツッコめるくらいの気力はあった。

 

さて、そんな冗談はさておき、そのあとはとりあえず改札を出ようとした。

 

乗り越し精算機だけは私に喋りかけてくれる。無機質な声ながらも、なぜかほっとした。私が取り残されたのは、音のない世界ではなかった。

辺りを見渡すと山が広がっていて、安宿どころか家もない。タクシー乗り場もバスロータリーもあるはずがない。

こんなことくらいで悲劇のヒロインぶっているわけではないが、本当に、本当に、独りで怖かった。何の気配もしなかった。

 

よく一緒にいる頼れる友人には連絡したものの、寝てしまっていたようでまたもや絶望。他の友人が迎えに来てくれるのを待つ手もあったが、待ち時間に耐えきれる自信がなかった。というか、この近くに住んでいる友人なんてそもそもいなかった。

 

 

 

と、そんな時。 なんと、真っ暗闇の中、一台の車の光が見えた。

救世主、タクシーーー!!!

 

優しいおじいちゃんが扉を開けて乗せてくれた。「お嬢ちゃん、どこまで行くの?」と。

たまーーに、乗り過ごして困っている人をこうして助けてあげているらしい。それが偶然にもこの日だったなんて、思わず神様の存在を信じたくなった。

 

「1時間ちょっとで着く思うわ。料金やけど1万円はいくやろうね。超えたら止めとったる」と、おじいちゃん。

止めといてあげると優しく言ってくれたものの、徐々にメーターが上がっていくのが怖かった。タクシーで1万円なんて、学生にはものすごい金額。ただ、奇跡的に1万円ちょっとは財布にあったので少し安心した。緊急事態の時に使えるように、と万札を持っておいたおかげだ。良かった。

 

「地元は?」「この辺のこと分かるか?この町はな…」「何を勉強しとるんや?」と、道中は色んな質問をしてくれるおじいちゃん。

なんと、前の東京オリンピックの年からタクシー運転手をしているらしい。1964年から。53年も同じ仕事を続けているなんて、尊敬でしかない。それが良かれとされていた時代だった、という理由もあるかもしれないが、私はきっと、同じことを何十年も続けることは出来ないと思う。

 

車内での会話は思いの外盛り上がったので、楽しかった。やっぱりおじいちゃんは物知りだなぁ

 

 

と、そんなこんなで無事に最寄り駅に着いた。

1時間前はあんなに絶望していたが、最悪の事態を免れて本当に安心した。料金は、言っていた通り、途中1万円になったところでメーターを止めてくれていた。

 

「本当にありがとうございました。」

そう言って、車を降りた。おじいちゃんは優しい笑顔で「気い付けてな」と言い、タクシーはまた同じ道を走っていった。

 

 

ありがとう、おじいちゃん。

また、どこかで。